そろそろ、夏本番の季節になり、夏をエンジョイしたいところですが、事務担当者のみなさんは、お仕事の遅れなどを取り戻したり、たまった書類の整理をするには絶好のチャンスでもありますね。

前回は、NPO法で定められた会計原則を見てきましたが、今回は、そのうち、特に日常処理で必要な簿記に関して重要となる「正規の簿記の原則」について考えたいと思います。

 

正規の簿記の原則とは

前回にも書いたように、NPO法では、「正規の簿記の原則」に従って正しく記帳することが要求されています。では、その「正規の簿記」とは何かというと、次の要件を満たす簿記が「正規の簿記」であると言われています。

ⅰ)網羅性(すべての取引が網羅的に記録されていること)

ⅱ)立証性(会計記録が検証可能な証拠書類に基づいていること)

ⅲ)秩序性(すべての会計記録が継続的、組織的に行われていること)

では、どのような処理をすれば、上記3つの要件を満たすことになるのでしょうか?

 

1.網羅性

網羅性とは、「すべての取引が網羅的に記録されていること」です。

つまり、取引は欠けることなくすべて帳簿に記載されていなければなりません

例えば、いつも、寄付金を頂いたときは、帳簿に記入し、現金管理モしっかりしているのに、募金箱を設置して寄付金を募ったところ、金額が少なかったので、帳簿に記入するなどの経理処理を行わず、別の箱に入れ替えて、必要に応じて少額の費用をそこから支出していたとすると、募金箱の寄付金、およびそこから支出された費用は帳簿に記録されないことになります。このような処理は「すべての取引が網羅的に記録されている」とは言えません。どんな少額な取引であっても、すべて帳簿に記入し管理をしていくことが重要です。

 

2.立証性

立証性とは、「会計記録が検証可能な証拠書類に基づいていること」です。

別に言い方をすれば、帳簿に記録される取引にはすべて外部から見ても証拠となる書類が整えられていなければならないということです。

例えば、帳簿に旅費交通費で1回80,000円の支出が記録されていたとします。

ところが、この80,000円の領収書も報告書も理事長や事務局が承認したものであるとの証拠もありませんでした。これでは、後日、その支出が本当に旅費交通費であったか、また誰がどのような目的でその費用を使ったのか、それを承認したのは誰かといったことを検証することができません。ひょっとして不正に支出されたものではないかと疑われても反論することができなくなってしまいます。

こういうことから、帳簿に記入する(会計ソフトに入力する)だけでは足りず、必ず証拠書類が必要です。

事務の現場では証拠書類を求めていても、事業の実施担当者が忙しく、かつ、書類がいかに重要であるかを意識していないと、往々にしてこういう状況になる場合があります。

実は、この証拠書類は、外部からの領収書や請求書などだけではなく、支払い承認や入金確認を法人内部で行うことも証拠書類を整えていることになります。

たまに見かけるのは、「請求書が来たからすぐに支払いました。」というケースです。

請求書の内容や支払日などを検討して、理事長や事務局長などの責任者の了承のもと支払っているかというと、そういうプロセスを経ていない場合、その請求書は本当に支払う必要があるものであったかを内部で検証していないと言われても仕方ありません。内部統制のためにも、一度、自分の団体がしっかり管理できているか、証拠書類は揃っているかなどを見直すことは大切です。

 

3.秩序性

秩序性とは、「すべての会計記録が継続的、組織的に行われていること」です。
つまり、会計記録は、毎日、一元的に管理された状況で行われることが必要です。

個人個人が勝手に帳簿をつけているとか、バラバラの日付で記帳されている場合は、組織的に行われているとは言い難いです。

正確な会計記録をつけるためには、取引があるたびに(毎日あれば毎日)記帳を行うことが何よりも大切です。そこで、会計担当者を最低1名置き、責任者(これも最低1名)を置いて、お互いにチェックする体制が必要です。

とはいうものの、現実的にこの体制を作るには、多くのNPO法人では困難であると思われます。そこで、その場合には、事業担当者の中から2名会計担当者として選出し、事業と会計の双方を手分けしながら行い、責任者(事務局長クラス)の方が承認、チェック等を行う体制も考えられるでしょう。

また、「秩序性」を確保するためには、一般的に、取引発生順の記録としての仕訳帳と勘定科目別記録である総勘定元帳の2つを、複式簿記の原理に基づいて作成した結果として、誘導的に財務諸表を作成することであるとされています。

これは、どういうことかというと、

①取引日順にその取引を仕訳し、仕訳帳に記入する。

②仕訳帳に記入された勘定科目について、総勘定元帳にその増減を記入する。(これを「転記」という。)

③上記2つの帳簿(これを「主要簿」といいます。)に転記ミスなど不備がないかを確認し、試算表を作成する。

④試算表をもとに、決算日に決算修正、決算整理仕訳を行い、財務諸表(活動計算書、貸借対照表など)をさくせいする。

このように定められた一連の流れの中で財務諸表(決算書類)が作成される過程を「誘導的に」という表現で表しています。この方法であれば、恣意的な操作がない限り、どこから調査をされてもしっかりと説明責任を果たすことがしやすいというメリットがあります。

ぜひ、みなさんも、ご自身の団体でどのように書類が作成されて行っているのかを確認しておき、不備があると感じられた場合には、改善策を考えていかれることをお勧めします。もし必要であれば、当研究所でもお手伝いさせただきますので、いつでもご相談ください。

次回は、上記の会計原則が日常処理でどのように具体化されていくべきかについて考えたいと思います。

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